PITCH GRANTの最終審査が京都市の将軍塚青龍殿で行われ、第1回のグラント受賞者は、
横山佳奈恵さん「Unbreakable Egg」と、豊田有希さん「あめつちのことづて」に決定しました。

2020 PITCH GRANT 受賞者・ファイナリスト

1次審査審査員総評

新井卓(アーティスト・映像作家)ほとんど全てのプロジェクトについて、タイトルに再考を要する印象でした。外国語を使用したものは文法的に間違っていたり違和感があるものが多い。また日本語は過度に叙情的であったり、甘さが目立つ印象。タイトルは手がかりの少ない写真メディアに許される数少ない言葉の世界なので、日ごろから言葉に意識を巡らせる労を惜しまないでほしい。

「写真を使って○○を表現したい」のではなく「写真をやりたい/写真家になりたい」応募者が多い印象だった。写真という道具を利用して作者が何を説得したいのか、その芯の部分がなければ作品を世に問う意味はないと思う。

フィルム、デジタルなどメディアの選択について言及するプロジェクトもあったが、応募作中ではその意義はほとんど見いだせなかった。

片岡英子(ニューズウィーク日本版フォトディレクター)選出された皆様、おめでとうございます。写真というメディウムが持つ可能性は無限であるとあらためて感じさせられ、私自身、大変刺激を受けました。審査は、作品自体のオリジナリティと期待値の高さを柱として拝見しましたが、すでに洗練されたクオリティを持ち、さらなる飛躍を予感させる作品もあり、9月のプレゼンテーションが楽しみです。

松本知己(T&Mプロジェクトディレクター)今回、写真とステートメントが提示され、それを見て・読んで審査にあたった。応募された写真家たちの「現在」と「これから」に期待しつつ、46名分のプロジェクトを見た。この世の中に存在する写真家やその活動・作品を調べ、自分の活動・作品・言葉をある程度批評的に見ているのか疑問に残るものが多くあった。自分が「なぜ」それに取り組み、「なぜ」その発表方法を選び、、、という自分に対する問いの投げかけをもっとしていったほうが良いだろうと思う。あなたにとって大切なものでも、それを目にする側にとっては大切ではないことなんて往々にしてある。その壁を超えようとしているもの、またはどんどん深めようとしているものと出会いたいと思っている。SNSをはじめとして、ネットの力によって発表しやすい環境にある。パッと作品を発表しがちであるが、時間をかけ、丁寧に、時には我慢しながら作品制作に没頭したらいいのではないか。焦る必要はない。

喜多村みか(写真家)自分のことは棚に上げて書かせていただくと、たいへん難しかったです。率直な印象は、プロポーザルの内容に対して、作品のクオリティが追いついていないように見えるものが少なくありませんでした。言い換えれば、うまく作品にできれば面白い、見てみたい、応援したいと思えるものがいくつもありました。

必然性を高めるための理由づけはもちろん重要ですが、あくまでも最終的なアウトプットは写真や作品のイメージだと考えます。その点で「イメージを選ぶ、編集する」ことで「作品を編み、作りあげていく」ことは大事な作業なのだと改めて気付かされます。言葉とイメージとの間を何度も行き来して、自分なりに咀嚼し熟成させる時間が必要かと思います。

それぞれの作品の写真とプロポーザルを交互に眺めつつ、今回は、作品の意図するところと写真(映像など含む)のふたつの距離がある程度保たれ、解離せずにきちんと同居していると思えるものに目がいったように思います。そのふたつが離れすぎていると、作品の説得力のようなものがどうしても遠のいてしまいます。

それから、応募者の中でも特に若い世代の人たちのSNSとの向き合い方、或いはそこにある葛藤のようなものも印象に残りました。わたくし個人はあまり得意な方ではないのですが、もっと若い人たちもそれなりにそうなのかな、と少し驚き、安心もしました。きっかけは問わず、写真行為が自己肯定の手段となるような、ある種セルフケア的意味合いを持つことは、ともすれば現在はことさらその様相を強めているのかもしれないとも感じました。

優れた作品は、ジャンルやそれの意図するところを超えて、なにかメタフィジカルな思考を与えてくれるものだと考えています。また或いは、歴史の中に於いてはその時々の記録でもあり得ると思っています。僭越ながら、今回は、そうしたものを残す可能性を感じた作品に票を入れさせていただきました。審査させていただき、ありがとうございました。

天田万里奈(キュレーター)直感的にピンと来てしまう自分好みのポートフォリオというのが1件ありました。しかし、それに加えて、この写真家しか取れなかったであろうと思わせる写真シリーズ。写真家のユニークな視点が表現されているシリーズ、ステートメントに書かれた動機もCoherentであるポートフォリオ。今取り組むことに意味があると(私が主観的にですが)思われるテーマを取り扱ってる写真家。絶対にもっと見てみたいなと思わせる写真家が何人かいて、5点満点としました。そんなにたくさんの若手写真家に対してそう思う事ができたのが、嬉しかった。今回優勝する事ができなくても、この先が楽しみだと思う人たちでした。