2017 年から「CRASH」というタイトルでシリーズ化した写真のプロジェクトに取り組んでいます。 これらは主に近赤外線カメラやドローンを使用した写真作品を発表しています。
ロケーションはカリフォルニア州ロサンゼルス郊外のモハべ砂漠に遺棄された爆撃機と、京都の鞍馬山に遺棄されたクラシックカー、最後にニューヨークの船の墓場の三つの現場で 2017 年から 2018 年の初頭にかけて撮影しに行きました。
このタイトルのクラッシュの意味はアクシデントといった意味合いではなく、”自然”と人間が残した”人工物”との相互関係を表現しています。
その自然と人工物を、それぞれを分けて可視化できるよう近赤外線カメラを使用し撮影しています。
この撮影技法は植物を白く写し出す効果があり、人工物と植物の物質的な違いを浮き彫りにするだけでなく、朽ちる運命にある”過去の産物”と今を生きる”植物の生命”を対比させる意図があります。
人々が不要と判断し遺棄したこれらのオブジェクトは、役割を終え環境の循環の中へと身を委ねる他ありませんでした。自然のサイクルに埋もれた人工物を可視化していく事で、私たちが普段想像する事の無いであろうその後の世界をイメージさせる事が目的です。それらはまるで空想科学小説のようなディストピア的な世界でありながら、それは真実の光景である事に気付かされます。
そして、人々の手によって作り出されたこれらの人工物は、この自然界においてあくまでも”異物”として半永久的に残り続けるでしょう。
私は鑑賞者の心に訴えかける為に、これらの人工物である被写体を人の顔や身体に見えるよう撮影しています。
また人類がこの地球の自然環境において、目的としているところは、あくまでも人類が存続できる環境であるかどうかの一択ですが、そもそも人類が自然そのものをコントロールする事は到底不可能だと言えます。私たち世代が生まれた頃から既に地球の人為的な荒廃は始まっていて、自分達で選択できる世代ではありませんでした。また人々が作り出した人工物は環境破壊や自然環境への支配的な側面だけでなく、人間が作った物の存在の危うさや儚さを示しています。いつか必ず終わるであろう人間社会の有り様は、既にこの世界に立ち現れていると言っていいでしょう。そして人間中心主義の“次の世界”は既に訪れているはずであり、その後の世界に繋がる光景を、新たな関係性のランドスケープとして、人間以外の知覚領域(環世界)と言われる赤外線によって可視化したいと考えています。自然という声無きものに耳を傾け、未来への意識を共有する為の翻訳者になる事が私のテーマであり目標です。
作家名杉山有希子作品名CRASH年度2020年 PITCH GRANT