「本来、卵は私たちが割り出すのではなく、中から外の世界へ自ら割って出てくるものだ。鶏は時折、私のような人間をターゲットに、外から割られないような卵を産む。産み親として、大切なものを守る本能的意志が日々のサイクルの中で見える形として表してくる。すべての卵は、産まれ出てきている。すべての卵は、親の血を引き自ら意志を持ってこの世に誕生しているのだ。」
私は3年前から養鶏場でアルバイトをしている。養鶏場で働く前までは、卵を食材の卵としてしか見ていなかった。鶏が産んだ卵だという当たり前のことを忘れていた自分がいることに、最初ショックを受けた。
私が働いている養鶏場では、鶏舎から選卵場へ直接ベルトコンベアーで卵が運ばれる。検品作業で、ヒビが入っている卵や、殻の表面が変わっている卵は、手で選別し別枠に入れる。養鶏業界では「破卵」と呼んでいる。破卵になったとしても廃棄されることはなく、需要はあるのだが、スーパーで販売している店はめったにない(※)。
働き出し、初めて目にする卵を見て、私は又、ショックを受けた。こんなにも色んな顔を持って卵は産まれ出てきていたのか。この事実を見えないようにしているのか、疑いが芽生え、世の中の隠されている闇の一角だと過ぎった。手で選別をするという事は、これらの卵は私の手によって選び抜かれた卵。愛着が産まれ、家に連れて帰り、食べる前に写真を撮るようになった。写真を撮る仲になってしまうと、もう割れなくなってしまって、中身は注射器で抜き、やっと食材にたどり着く。殻は大事に取ってある。自分の部屋で卵と過ごす、そんなルーティンをやっていく次第に更なるショックを受ける。この検品作業を慣れれば慣れていくほど、ストイックになっていくほど2つの国を真っ二つに作っているということ。仕事を頑張れば頑張るほど見えない闇をつくっているのは自分だ、とゾッとした。
私を魅了した素晴らしく産まれ出てきた子たちを見えなくさせてしまっているのは私である。だから、見せないといけない。冷蔵庫から食材を取り出した時、持つ時間が+1秒長くなることを狙いとしてこのプロジェクトを進めている。
(※)破卵の使われ方
養鶏場が近くにある場合は低価格で加熱用卵として販売している店はある。
見た目で判断しない飲食店などに使用されている。
マヨネーズなどの加工などに使われている。等
作家名横山佳奈恵作品名Unbreakable Egg年度2020年 PITCH GRANT