姉のことが分からない。姉は人懐こい。おしゃべりで人の顔をすぐ覚える。イントロクイ ズが異常に強い。偏食で地図が読めない。背が低くいつもニコニコしている。カメラを向 けると必ず笑顔でピースをしてくる。 私は、背が高くなんでも食べる。人見知りで内向的だ。知り合いから「怖い」「あまり笑 わない」と言われる。
姉には遺伝子欠損による障害がある。最初に述べた姉の性格は障害の特徴に当てはまる。 この性格は元来のものなのか、障害によるものなのか。 考えてしまう。姉のことが分か らない。
姉の障害のことを調べてみると、どうやら空間認知能力も欠けているらしい。具体的にど ういうことか分からず、絵を描いてもらうことにした。思い出して描くようなものはそれ なりに描けるが、デッサンのような目の前にあるものを描く能力がないことがわかった。 これは見る段階で既にそう見えているのか、描く段階でそうなるのか。分からない。
ただ、姉の見えている世界は私とは明確に異なる。異なる世界が近くにあるなら私はそれ を見たい。
被写体を前にしている写真家の自分はひどく動揺している気がする。上手く撮れない。そ もそもこの写真が作品になりうるのかという根本的な課題もあったが、何より撮っていて 楽しくない。このテーマに取り組みはじめてから長い時間がかかっている。
撮れた写真を見返していて最近気づいたことがある。撮影者の意図を汲み取らず、なんの 警戒心も持たず満面の笑みでぐいぐい近づいてくる姉は、私を写真家ではなく可愛い妹と してしか見てない。
写真家に撮られることがどういうことなのか、姉は考えてもいないだろうし、考えること ができないだろう。私も理解されないと思いながらカメラを向ける。家族の写真って何? 私が撮っているこれは何?何がしたくてどこにたどり着いたら満足する?撮れば撮るほ ど、写真を見返すほどにこれらがなんなのか混乱する。
この写真は私が撮っているのか?それとも私が撮らされているのか? 私のことが分からない。
作家名サユリニシヤマ作品名小さい家族年度2021年 PITCH GRANT