「Awai」は発達障害の当事者への取材と、写真やテキストを用いたコラボレーションを通じ、当事
者と環境との関係に焦点をあてるドキュメンタリープロジェクトです。
私は2017年からライターとして活動する中で、障害当事者の社会課題について執筆してきまし た。本プロジェクトのきっかけは、2019年に行った障害のある学生による企業インターンの取材 です。主旨は、障害により就職活動で不利になる場合があるという課題を伝えることでしたが、約 1年の取材を経て記事は公開されたものの、心にわだかまりが残りました。理由は、参加者の半 数を占めていた発達障害の当事者について、彼ら彼女らの生きづらさに紐づく生活経験に言及 できていたとは言い難かったからです。「雇用機会の問題にフォーカスするあまり、当事者の語り を単純化してしまったのでは」という疑問が残りました。
人間の発達には幅があり、障害の有無に二極化できないことから、英語圏で発達障害は” Neurodivergence”と表記され、日本でも「ニューロダイバーシティ」という言葉が徐々に聞かれる ようになりました。一方で、当事者が特定の環境や対人関係に困難を抱え、生きづらさを感じるこ とがあるのは事実であり、外見的な不可視性ゆえ偏見や誤解が残り続け、理解されづらいことが 国際的に共通する課題と言われます。
上述の経験や発達障害、障害学のリサーチを進めるうち、既存の報道に則った姿勢を考え直す ようになりました。発達障害、ひいては障害という概念が、身体と環境の複雑で曖昧な交わりを 内包しており、アウトサイダーとして障害について考え伝えるうえで、その側面の思考が抜け落ち ていると感じたためです。具体的には、発達障害の生活経験に焦点を当て、倫理面に留意しつ つ当事者とのコラボレーションを模索するようになりました。
現在、英国で2年間の修士課程に在籍し、本プロジェクトに取り組んでいます。「Awai」は漢字で は「間」「淡」となり、ふたつのものの間、ほのかな色味という意味を持ちます。当事者の環境との 関わりやその曖昧さを意図してこの言葉を用いました。方法は、圧倒されたり心地良く感じる環 境・人・物、成長に伴う記憶に関する当事者へのインタビューに基づき、通常のカメラとピンホー ルによるポートレイトや風景、物の撮影を行っています。並行してポラロイドカメラとカラーマー カーをまとまった期間渡し、各々の環境との関わりを個々に撮影、出力された写真に時々の感情 を記録してもらうことを試みています。
英国の社会学者Mike Oliverは「障害は社会の側にある」と唱えました。このプロジェクトには「障 害とは何か」という根源的な問いが込められており、その問いは障害の非当事者、あるいは自身 をそうみなしている人が向き合う必要のあるものではないかと考えています。
作家名吉田直人作品名Awai年度2023年 PITCH GRANT