私はこれまで「生活の場としてのハンセン病療養所の記録と継承」をテーマに活動をしてきま した。現在、ハンセン病療養所は日本に13箇所あり、その内の一つである国立ハンセン病療養所 沖縄愛楽園に私は20年以上通い続けてきました。
何故自分はそのプロジェクトをしているのか
私が初めてハンセン病療養所を訪れたのは2歳の時です。母が大学時代に課外授業の一環で療養 所に訪れ、施設の人たちとの交流をきっかけに毎年通うようになり、やがて私も同行するように なりました。その後20年以上の交流の中で、私自身が見聞きした「生活の場としてのハンセン病 療養所」の視点での記録が残されていないことを知り、自身が交流のあったハンセン病療養所の 暮らしの場のアーカイブと研究を始めました。 現在、ハンセン病療養所の入所者の平均年齢は85歳を超え、間も無く終焉を迎えます。これら の歴史をアートの文脈で、残していくことには大きな意義があります。何故なら、芸術は永続性を 宿し、世代を超える力があるからです。既に多くの継承すべき記憶、体験、資料が失われつつある 中で、どのように次世代にこれらの歴史を継承していくか、模索中です。 ある入所者に「僕たちが死ねばハンセン病問題は終わる」と言われましたが、生きた人たちの 物語は終わらせてはいけないと私は思います。どれだけの人に継承できるか、私の世代に課せら れていると考えています。また入所者に「若者が私の隣に座っているなんていい時代になった。あ なたが隣に座ってくれて、 私は今日、感謝して死ねる」と言われ、ドキッとするとともに、美し い言葉だと思いました。一方で、感謝して死ねる?どうして?と考えさせられました。この命の問 題について問いかけられる感覚こそが、ハンセン病療養所における継承すべきリアリティだと思い ます。
どのように行うのか
従来のハンセン病に関する展示は、資料性が高く、難しいイメージを与える展示が多いですが、 私の作品では、ハンセン病という文脈では用いられなかった現代美術特有の方法論であるインス タレーションを駆使することで、これまで意識されて来なかったハンセン病療養所での生活につ いて鑑賞者と共有することが可能です。これらの方法論により、ハンセン病という次世代にとっ て遠い歴史的事柄が、リアリティを持って迫ってくるものになります。
プロジェクトの重要性
私は、歴史的な資料や史実の提示だけでなく、そこに暮らす人々の暮らしの中の工夫や生き方 を見つめるところに、ハンセン病療養所の本質があると考えています。それは従来のハンセン病 の展示に対して新しい価値を提示します。
プロジェクトが支援を受ける価値
これらの成果として「T3 PHOTO FESTIVAL」にてグランプリを受賞し、さらにコロナ禍の療 養所をテーマに「第9回500m美術館賞入選展」にてグランプリを受賞しました。このように本プロジェクトは、社会的意義と美術的意義が認められています。現在も、三か所のハンセン病療養 所で制作と調査を続けており、今後の記録と継承のためにも支援が必要です。
作家名木村直作品名生活の場としてのハンセン病療養所の記録と継承年度2023年 PITCH GRANT