歳を重ねていくごとに
時間の流れの体感が早まっている。
気づくと1年があっという間だ。
時間が経過する速度は変わらないはずなのに。
進んでいることを確かめるために、
とり留めのない日々を記録したり、今まで撮った写真を見返してみる。
日々の手がかりから連想されることは、 いつだって曖昧だが、「今」があったことを ありありと示している。天日干しのシーツ、実家から届いたみかん、 姪の幼い額。数が増えることで、少しずつ時系列が混ざり合っていく。
記憶の手がかりをプリントし、触れながら、実際に混ぜてみる。 それらは、私の意識をとびこえて時間の経過を伝えてくれる。
「今」が蓄積された塊は、時間の標本だ。
見つめ直す作業の中で、
ごく自然と目の前にあったものたちに、
どこか愛おしさが湧いてくる。
これらの標本をどれだけ残せるだろうか、試してみようと思う。
わたしは、ずっと同じものはないと考える。 もの、人、土地、街、こころ。気がついたときには、違うものになっている。
全ての変化に注意を注ぐことなど、到底できない。
だからせめて、身の回りの気づけることにだけでも、敏感でいたいと思った。
わたしは、変わることに寂しさを感じていた。
しかし、制作を続けるうちに、その想いも変化した。
否定的な気持ちを持つのではなく、
変わることを受け止め、向き合い、昇華したいと考えた。
同じものがないということは、そこから新しい刺激がうまれるという希望も含んでいる。
当たり前にあったものたちを記録しながらも、
変化することの楽しみを示したいと思い、コラージュという手法を用いている。
使用する写真は、私が見つけたものだけである。
一見なにものでもないような塊たちであるが、見る人の経験や考えが重なることで、その人たちそれぞれの変化を私の作品を通して見つめてもらうことができたら幸いだ。
作家名髙橋実希作品名Specimens年度2021年 PITCH GRANT