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独・バイエルン州立図書館アートブックコレクション収蔵

私と写真家の岡原功祐は、ある病気の終焉を見届ける旅に出た。川の向こうにあるハンセン病村には、11名のハンセン病回復者が暮らしていた。この村に外国人が来るのは初めてだという。村を後にするとき、珍しい来訪者を村人たちは見送ってくれた。不安定に揺れる小さな手漕ぎ舟から村を振り返ると、老朽化した家屋がまばらに見えた。そしてそこには間違いなく、人が暮らしていた。社会から排除された彼らの態度は、その過酷な差別に関わらず、珍客に対しても開放的なものだった。彼らと社会を隔てたものは、たかだか数十メートルの川ではなく、もっと違ったものだったのだろう。彼らが数十年たっても越えられない川を、数分で越えてしまうことに複雑な感情を抱きながら、ひとつの病いの終焉を見つめる旅が終わろうとしていた。
(文:西尾雄志・近畿大学教授)

特装版について
巻物を開いていくと少しずつ絵が現れます。写真家が旅を追う中で少しずつ発見をしたり、新しい人に出会った過程を、見る人にも共有してもらえるような作品を目指しました。この作品の内容と合致するために、デザインや題字、使用している紙の種類など、すべて具体的に「これ」というものを選ばなければなりませんでした。また写真の印刷以外、一切機械を使わなず全て伝統的な手作業で制作されています。

素材:
ハンセン病は、人類の歴史の中でもとても古くから記録として残っている病気です。ヨーロッパでは紀元前3世紀のアレクサンダー大王の時代から記録があり、今回のストーリーの舞台となった中国では、孔子の論語の中にも記述があります。この歴史を表現するために、古文書のような体裁をとろうと考えました。古文書を表現することとクオリティとの両面を満たすものとして、細かい部分まで、全て和紙を使用しています。

表紙:
巻物の一番外側は、訪れた村々の草が生い茂った様子を表現するために、蔦の模様の刺繍が施してある桂無金上という和布を使用しています。裏打ちにも和紙を用い、強度を高めてあります。

軸:
軸は半年以上自然乾燥させた吉野杉を使用。手作業で調節し、軸先を取り付けています。

題字:
題字や地図に使用されている文字は、知人の書家の市野美怜さんに書いて頂きました。題字は、一本一本全て筆で直接書かれています。一つとして同じもののないオリジナルです。

箱:
最適な保存状態に保つため、巻物は桐箱に入れてお届けしています。桐箱の歴史は天平(奈良時代=700年代初頭)まで遡ると言われています。145年の歴史のある下町の桐箱専門の老舗で制作されたオリジナルボックスです。

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