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私と写真家の岡原功祐は、ある病気の終焉を見届ける旅に出た。川の向こうにあるハンセン病村には、11名のハンセン病回復者が暮らしていた。この村に外国人が来るのは初めてだという。村を後にするとき、珍しい来訪者を村人たちは見送ってくれた。不安定に揺れる小さな手漕ぎ舟から村を振り返ると、老朽化した家屋がまばらに見えた。そしてそこには間違いなく、人が暮らしていた。社会から排除された彼らの態度は、その過酷な差別に関わらず、珍客に対しても開放的なものだった。彼らと社会を隔てたものは、たかだか数十メートルの川ではなく、もっと違ったものだったのだろう。彼らが数十年たっても越えられない川を、数分で越えてしまうことに複雑な感情を抱きながら、ひとつの病いの終焉を見つめる旅が終わろうとしていた。
(文:西尾雄志・近畿大学教授)