本作は、1918年に書かれたJohn.F.Byrne の著作「Silent Years」を伏線とし、自叙伝を制作することを試みた。「Silent Years」は、煙草の箱に入るほどの小さな機械で転字暗号を用いて記述されている。
転字暗号とは文字の順序を変えるだけの単純な暗号だが、その法則の制作者のみに理解できるものが多く、他者による解読が最も難しいと言われている。
「Silent Years」も、多くの人間が解読しようと試みたが、未だに解読はされていない暗号の一つだ。
解読キーのわからない暗号を読み解くことは、作品を見て何かを理解しようとすることや緩やかな連関を持つイメージの集まりの意味を紐解くことに似ている。
本作では、日常における様々な物事を、写真という記号を使って暗号化し記述した作品だ。
しかし、残念なことに私は解読するキーを失くしてしまった。
この作品は蓋を開ければ、たくさんの意味を所持する内容かもしれないし、もしかしたらなんの意味も持たない内容であるかもしれない。
タイトルの「I ate hay」とは自分の名前を使って転字暗号にしたものだ。
翻訳すると「干し草を食べた」という文や生活、島、行く、ここにある。などのいろいろな意味をもっている。
本作の今後の展開としては個展を考えている。
このプロジェクトは、ウィルスでありワクチンだ。
私が使用する写真はいわゆるただのリサーチをした結果の記録ではなく、記録であり暗号でありフィルムという物質である証明だ。そして私が世界に立ち向かう生の記録であるということが前提である。
この作品はありがたいことにいろいろな場所で展示する機会があった。写真だけではなく絵画や映像、彫刻や立体物などの様々なジャンルが交わる場所で展示した時に
「写真はアートなのか?データだからわからない」と言われたことがある。
写真はフィルムという物質だし、アートだと私は思っている。
しかし写真はアートではないと感じている人は少なからず存在するようだ。
そこで私は個展を通して数多くの人に私の作品を鑑賞してほしいと考える。
写真とは視点を変えるだけで記録にもなり、抽象的や叙情的にもなり、物質にもなる。ただの複製可能なデータではない。
私の写真が持つ世に対して乱暴で反抗的なウィルスが、作品にするという試行錯誤を経てワクチンになり、個展に来た鑑賞者に投与する。写真に対する見方を変える遺伝子変異を起こすプロジェクトだ。
作家名伊藤颯作品名干し草を食べた年度2021年 PITCH GRANT